(牧山)
お二人とも新型コロナウイルスの影響で大変な中でも、新しい視点で取組んでいらっしゃる点、興味深くお話を伺いました。ところで、新たな取組みとして、能作さんと山川さんでコラボされた旅行商品を販売されると伺いましたが、そのきっかけとねらい、今後の展望について教えてください。

記念日を祝う「伝統産業と宿」のコラボ
互いの魅力伝えたい

(能作)
当社では10年目の結婚記念日を祝う「錫婚式」というのを1年ぐらい前から企画し、現在まで45組の方がご家族で式を挙げられました。県外からも多かったのですが、新型コロナウイルスの感染が拡大してから、県内での需要がすごく伸びています。お客様からは、「海外旅行に行けないし、富山県で結婚10年目にこういった記念日をお祝いできることが気になっていた。利用したい」という声が増えています。国内のお客様にコアに接することができる「錫婚式」に私はすごく期待し、新たな観光の形になるのではないかと思っていました。そんな中「富山県に来て記念日を祝いたい」「私たちは結婚5年目だけど大丈夫?」「夫婦二人でお祝いしたい」「カップルだけど興味がある」といったように、結婚10年目以外の方からお問い合わせを受けるようになりました。そこで、もう少し工芸に触れて記念日を祝っていただくプランができないか、と山川さんに相談したのが始まりです。自然豊かな富山県には、新鮮な食材やゆったり泊まれる宿、伝統工芸などがたくさんあり、それらを“つなぐ”ことで新たな魅力を発掘できます。旅行を通して、記念日という1つのテーマに沿った新しい企画を作りたいと思いました。

クラフトをテーマにまちをつなぐ
民間の力で新たな価値創造を

(山川)
私自身が長く海外で生活してから富山に戻ってきて、井波彫刻の彫刻師の方たちと事業をさせていただく中で、呉西地区全体を見ても高岡には鋳物や漆器、螺鈿、蒔絵といった工芸文化が残っていて、今でも十分伝える方がたくさんいらっしゃる。それをつなげたいという思いがすごくありました。能作さんは職人さんをすごく大事にされているし、工場見学など、職人の仕事を間近で見られる場も提供されている。それこそ井波彫刻と銅器と作っているものは違うけれど、職人さんを大事にしている思いは共通なので、そこをうまく行政区画に縛られることなく、民間で連携して何か新しいことができないかと思いました。ちょうど能作さんが旅行業に進出されるという話を聞いていたので、これは何か面白いことができるのではないかと。一つこれでベンチマークを作って、ぜひ他の県内企業さん同士が連携して新たな価値を創造するような、そういった動きができてくれば非常にいいのかなと思って進めました。

(牧山)
ちょうど今、密を避けなければいけないとか、団体旅行の展開が難しいといった声を聞きます。加えて富山では以前から観光地同士が離れていて周遊しづらいという課題があるとも聞いています。そういった面からもお二人が取組まれる県内連携の事例を通して新たな観光ニーズが浮かび上がってくるのではないかという気がしますが、いかがですか。

(能作)
そうですね。山川さんのところ(南砺市井波地区)まで、能作から車で30分ぐらい。思っている以上に近い。私も今回のコラボをきっかけに山川さんの宿に家族で泊まらせていただいたのですが、井波の街並みが本当に良くて、同じ富山県民なのになんでこんな魅力を知らなかったのだろうと思いました。今回の旅もクラフトをテーマにしながら、まちの魅力を最大限に伝えるというところが重要です。これから井波と高岡、高岡からどこかと、どんどんつなげていければ富山県での観光の可能性が広がると感じています。

アフターコロナのキーワード
強い“個”で富山を世界に発信

(牧山)
新型コロナウイルスは、私たちの意識・価値観や行動様式に変化をもたらし、今後はこのように変化した日常に適応していく必要があるとも言われています。こうしたなか、われわれ富山県民はどのような意識をもち、どういったスタイルの富山県を目指していくべきとお考えでしょうか。

(山川)
例えばコロナ前は、富山県の場合「数が多いことが価値」だったと思います。今はその「多い」ことから「個」に移っているように感じていています。個人の趣向や多様性、今の若い人が使っているインスタグラムもそうですが、インスタグラムを使っている方たちというのは、多いものに迎合するというよりも、ファッションだったらこの人、食事だったらこの人といったように、価値の多様性みたいなものに魅力を感じて、その中で新たな価値観が生まれています。こうした状況下にあって、いかに個を発信できるかというのは、今後の富山、観光もそうですが、さまざまな産業の需要を取り込むうえで大事になってくると思います。

それこそ、移住もそうです。観光というのは、いわゆる移住の入り口になる。県外の方が、富山県を最初に訪れるのは観光だと思いますので、その時に「この地域に行きたい」というより「この人に会いに行きたい」というようなニーズが今後増えていくのではないかと思います。そうであればやはり、強い個を創るというか、個をもって世界に発信できる体制づくりが、アフターコロナ時代のキーワードになってくるのではないかと感じています。

100年後の文化の源泉となる人づくり
起業から伴走し、事業を徹底支援

(牧山)
山川さんは他業種との交流の場として「ラボ」を作られたと伺っていますが、この展開も、山川さんのおっしゃる強い個を創るということにつながるのでしょうか。

(山川)
そうですね。ちょうど一昨年(2018年)、日本遺産に井波地域が認定されたことをきっかけに、地域に若手ワーキンググループができました。それをきっかけに一般社団法人「ジソウラボ」という団体を作り、いろんな業種の団体の方が若手で集まって、自分たちでお金を出し合って、今後のまちの未来を考えようという活動になりました。その時に最初に何をやったか。普通、行政や自治体であれば、じゃあ場所を作ろうということで公共施設を作るみたいな発想になりがちですが、そうではなくて、井波の未来を担うような、文化の源泉になるような人たち。いわゆる人口増を考えるのではなくて、100年後の未来を担う文化を創る人たちを5年かけて10名呼ぼうと立ち上げました。

地域おこし協力隊制度もそのうちの1つになりますが、やはり課題になるのは、地域になかなか馴染めないことです。例えば専門性のある方が田舎に行って何かをしたい。手付かずの家を改良したいと言っても、なかなか受け入れてくれないですよね。いきなり知らない人が「あなたの家のそのキャベツを買わせてください」と言っても売ってくれない。そこはやはり地域の方が伴走者になって、つないであげるということも必要です。時には事業計画を一緒に作ってあげるとか、地元の銀行を紹介してあげるとか。あとは民間企業の若手経営者たちばかりなので、それこそ起業まで伴走して雇用まで付き合う。そういうことによって、いわゆるベーシックインカムといわれるような基礎的な収入がありつつ、最終的には起業まで持っていける。開業の時点で顧客や取引先があればベストです。そうすれば、銀行側にすれば安心してお金を貸せるという状況も作れます。最近は共助という言葉がありますが、共助とデジタルを融合しながら、何かうまく組み合わせられないかということを考えています。

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